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2007年5月31日 (木)

『Paranoiac』 1963

 

Paranoiac 1963

ジョセフ・ティの傑作探偵小説「魔性の馬」の映画化。ハマープロらしからぬ上品なサスペンスが素晴らしい。ハマープロだってやる時はやるのです。いつもいつも吸血鬼に咬まれた傷に焼き鏝おしあててジューばかりではないのです。

警告、警告、このDVDのリージョンは1です。したがって日本国内のDVDプレーヤーでは再生できません。警告、警告。

海岸沿いの険しい崖、カモメの鳴き声が聞こえてくるなか、どーんとタイトル。オープニングクレジットとなります。これが終わって映ったのが教会。神父さんがジョン・マリー・アシュビー夫妻の11回忌のミサを行っておりました。地元の名士であった夫妻は11年前旅行先のニューヨークで飛行機事故でなくなっていたのでした。さらに息子のトニーが8年前に崖から海へ飛び降り自殺しておりまして残された家族はジョンの妹ハリエット(シィエラ・バレル)、次男のサイモン(オリバー・リード)、長女のエレノア(ジャネット・スコット)だけとなっております。

 このミサの最中、突然倒れるエレノア。急いで屋敷に運びまして介抱したところ、「私はトニーを見た、トニーが戻ってきた、私を連れにきたのよ」と訳の分からないことを言い出します。これには叔母さん、サイモン、看護婦のフランセス(リリアナ・ブラウス)もびっくり。サイモンと叔母さん、「そろそろ入院させなきゃ駄目なんじゃないの」などとひそひそ話し合っております。エレノア、二人がそんな話をしているさなかにまたしても窓からトニーの姿を発見、彼を探して屋敷の外へ走りでるのでした。

 エレノア、ばったりとトニーにご対面。しかしその時彼女の名前を呼ぶおばさんの声に振り返ったとたんトニーはまるでかき消すかのごとくいなくなってしまったのであります。サイモンと叔母さん、「あなたたちがそんな声だすからトニーびっくりして逃げちゃったのよ」と喚くエレノアを屋敷に連れ戻すのでした。

 サイモンはスポーツカーをばりばり乗り回すドラ息子。一応教会でオルガンの演奏者として働いてはいるもののしょっちゅう酔っ払ってアル中同然です。警察のトラ箱のお世話にもなっていて叔母さんによれば「刑務所に入れられなかったのはアシュビー家の家名のおかげよ」なんだとか。おまけに看護婦のフランセスともできているようで実にまったくけしからん男です。そのフランセスもサイモンに「これ以上エレノアがおかしくなったらお医者さまが呼ばれてしまう。そうしたら私がホンモノの看護婦じゃないことがばれてしまうのよ」なんていっていてこいつも怪しいことこのうえなし。

 ハリエット叔母さんはサイモンとフランセスの関係に気づいておりまして、この人もまた胸に一物秘めているようであります。

 さて、サイモンには問題がもう一つ。執事のウィリアムス(ジョン・スチュワート)にブランデーがないぞ、ブランデーを買ってこいと命令したところ「すみません、坊ちゃま、でもあなたがあまりお金を使いすぎるのでもうお金がないのです。ツケだってたまり放題たまってます。もう酒屋が酒を売ってくれないのです」怒ったサイモン、アシュビー家の顧問弁護士ジョン・コセット(モーリス・デナム)のところに怒鳴り込むのですが「遺産の配当金ですからな、私にもどうにもなりませんよ。最終的に相続するまで待つしかないですよ」と言われてしまうのでした。結局コセットの息子キース(ジョン・ボニー)に金を借りて退散するサイモン。カッコわりー。

 ここでまた事件が起こります。トニーの幻影を見たことで自分の精神状態に絶望したエレノアが崖から海へ「神様お許しを、私はもう耐えられません」と叫ぶなり海に飛びこんじゃったのです。これをたまたま目撃したのが彼女がトミーだと思った男って、ややこしいですな(笑)。トニー(仮)は勇敢にも海へ飛び込みエレノアの命を救ったのでした。

ここからこの男のことをトニー(仮)と呼ぶことにしましょう。

彼は屋敷へエレノアを運び込みます。ウィリアムスや叔母さんはびっくり仰天。トニーはエレノアの幻影などではなく本当に存在したからです。意識を取り戻したエレノアはトニー(仮)の姿を見て大喜び。今までぼろぼろの状態だったのがあっという間に回復するのでした。

 叔母さんとサイモンは当然ながら彼のことを簡単にトニーとは認めません。彼がホンモノなら遺産の取り分が大幅に少なくなってしまうからです。「トニーは8年前に自殺したのよ。あなたがトニーの筈はないわ」と叔母さんが噛み付きますと「でも遺書だけだったでしょ、死体は見つからなかったでしょ」トニー(仮)はにっこりとします。「あの時、僕は叔母さんと一緒に住むことにもう耐えられなくなったんです。だから自殺を偽装した」叔母さんはかっとなります。「じゃあ、だったら何で今頃戻ってきたのよ」「エレノアの様子を見に来たのですよ。だいたい彼女が自殺しようとしなければこの屋敷に来るつもりはなかったのだ」

 埒が明かないのでサイモンと叔母さんはとりあえず彼を元のトニーの部屋に泊めることになります。この時トニー(仮)、自分の部屋を良く覚えていないような様子を見せるのでした。むむ、こいつも怪しいなあ。

 翌日、弁護士のコセットがやってきます。エレノアはトニー(仮)にそっと耳打ち。「叔母様もサイモン兄さんも疑っている。コセットさんはあなたをテストしようとしているのよ、気をつけてね」エレノアの言葉通り、次々にトニー(仮)に質問をぶつけるコセット「私があなたの十歳の誕生日にプレゼントしたものは何でしたか」「うーん」と首を捻るトニー。「何だったかなあ、覚えていないなあ」ほら、見たことか、こいつは偽者だと身を乗り出す叔母さんとサイモン。しかしトニー(仮)は少しも慌てず「でも9歳と11歳のプレゼントなら覚えていますよ、9歳の時は万年筆、11歳は自転車だったなあ」「あなたはお酒を飲まれますか」トニー(仮)、にやっとして「いやだなあ、僕は飲めないですよ、コセットさん、それはあなたも良くご存知じゃありませんか」このあとも次々に「学校で一番の親友の名前は」「その人のあだ名は」とトニーしか分かりえない質問を繰り出すコセット。しかしトニー(仮)は簡単に全ての問題に答えてしまったのです。

 このテストの後何故かキースを尋ねたトニー(仮)、あ、こいつブランデー飲んでやがる。キースがにやにやと「トニーは酒は飲めなかったんじゃないのか」「たしかにトニー・アシュビーは飲めなかった。でも俺は飲めるもんね、いや、飲めるもんなんてもんじゃない、浴びるほうだね」ということはこいつ偽者だったのか。トニーに関する細かい情報を教えたのはこのキースだったのです。二人で組んでトニーの分の遺産60万ポンドを頂こうとしていたのです。

 キースは「君が510年我慢してくれれば50万ポンドが我々のもの。大金持ちですよ、うっしっし」と喜んでいるのですが、この辺からトニー(仮)の顔が暗くなっていきます。「いやあ、金はいいんだけど、この芝居でエレノアが傷ついちゃうだろ、それが気になって」キースはぽんと彼の肩を叩きます。「仕方ないじゃん、何しろ金のためなんだから、そんなこと考えるなよ」説得力皆無の台詞とはこのことなり(笑)。

 この後サイモンがまたしても酔って今度は酒場で大暴れ。トニー(仮)が迎えにいくことになります。酒場の主人は「今度暴れたら呼ぶのはあんたじゃなくて警察だよ」とかんかん。トニー(仮)、平謝りに謝ってなんとか許してもらい車でサイモンを連れ帰るのです。車中で目を覚ましたサイモン、助けてもらいながら「俺は絶対あんたをトニーと認めないからな」なんて言ってます。さらに屋敷についたら今度は叔母さんが「トニー、あんた、サイモンに触るんじゃないよ、何様だと思っているんだい」トニー(仮)、思わず「何様って俺様さ」と叔母さんに聞こえぬよう呟いたのでした。

 ちなみにサイモンと叔母さんの間にも何か特殊な事情がありそうです。まったくいろいろある一家ですな。

 さて、その夜目を覚ましたトニー(仮)、外からオルガン演奏と少年の歌声が聞こえてくるのに気がつきます。トニー(仮)、起きだしてどこから聞こえてくるのかたどってみますとどうやら庭の礼拝堂かららしい。外へ出たトニー(仮)、チャペルのドアを開いて中を覗いてみますと何者かがパイプオルガンの前に座って演奏している。傍らに少年らしき人影と思いきやこの人影が手鉤を持って襲ってきた!しかもこいつはヘンな仮面を被っている、わあ、恐ろしい。トニー(仮)、腕を二度ばかり手鉤で切り裂かればったりと倒れます。

 彼を助けたのはやっぱりオルガンの音を聞きつけてやってきたエレノアでした。彼女はトニー(仮)の傷を手当しながら彼女もあのオルガンと歌声を何度も聞いたことがあると話します。しかし彼女以外誰もその音を聞かないというので彼女はてっきり自身の幻聴だと思っていたというのです。「あれは現実のことだったのね」と呟くエレノア。トニー(仮)は「エレノア、あの歌声の主は一体誰なんだ」「分からない、でもあの歌声、いなくなる前のあなたそっくりだわ」

 ハマー映画らしからぬ上品なスリラーですなあ(笑)。

 翌日、ガレージでなにやらごそごそしているサイモン、あ、こいつ、ブレーキパイプを切りやがった!この車でピクニックに出かけたのがエレノアとトニー(仮)です。海を見下ろす崖の上でお弁当食べて楽しく語り合った2時間、そろそろ寒くなってきたので帰ろうということになりました。エレノア、「じゃあ、私が車をUターンさせておくね」よしときゃいいのに本当に車に乗ってUターンを始めるエレノア。バックしたとたんにブレーキが利かなくなって車は崖へ突進します。かろうじて柵に引っかかって転落は免れたのですが、車は宙ぶらりんの状態になってしまいました。トニー(仮)、運転席のエレノアを間一髪助け上げます。直後転落して爆発する車。サイモンの悪巧みは失敗したのでありました。

 そのサイモン、フランセスから「お金はいらないから一緒に行きましょう」とかき口説かれております。フランセスは好きでもお金はもっと好きというサイモン(笑)、「まあ、トニーはいつまでもここにいる訳じゃないからな、金が入るまで待ってくれ」ところがまさにその時タクシーでエレノアとトニー(仮)が帰ってきた。二人の姿を窓からみたサイモンは驚きます。その様子を見たフランセス、サイモンが彼らを殺そうとしたのだと直感したのでした。

 夜になるとまたも聞こえてくるパイプオルガンと歌声。トニー(仮)は再びチャペルへ赴きます。今度はエレノアも加わって二人。チャペルの扉を開けようとしたのですが今夜は鍵が掛かっています。仕方なしに窓から覗いてみると昨晩と同じくパイプオルガンを演奏する男と傍らの仮面の人物。そして彼らの側にはレコードプレーヤーが置いてありました。あの歌声はレコードのものだったのです。ここで覗いている二人に気がついて再び手鉤を持って襲ってきた仮面の人物、しかし今度はがっきとトニー(仮)に腕をつかまれあっという間に仮面をはがれてしまったのでありました。

 仮面の下から現れたのはまあ、予想通りですけれども(笑)ハリエット叔母さんだったのです。

 ここからハリエット叔母さんの血を吐くような告白。「サイモンは狂っているの。彼はトニーの死に罪悪感を感じていて彼自身を追い詰めたのよ。そんな彼が心の平安を得る方法はたったひとつ、あのレコードのトニーの声に合わせてオルガンを演奏することなの。彼が生きている思いたいのよ。それで彼の狂気はだんだん収まってきていた。最近ではほとんど出なくなっていた。でもトニー、あんたが戻ってきた日からまたぶり返したのよ」

 こりゃ要するにサイモンがトニーを殺していたということなんでしょうなー。

 この後、激情に駆られてキスを交わしてしまうトニー(仮)とエレノア。この激情が去った後たちまちヒステリーを起こすエレノア。「ぎゃあ、あたし、お兄さんとキスした、キンシンソーカンだわ、私もサイモンと同じでクルクルパーなのよ」わああと泣き喚いて部屋へ飛び込むエレノア、あろうことか鏡台にあったハサミを使って自殺しようとするのです。これを寸前のところで止めたトニー(仮)、「僕は本当のトニーじゃないんだ、偽者なんだよ、だからキスしたってキンシンソーカンにはならないんだよ」エレノア、けろりと態度を変えて「ああ、良かった」だって

 サイモンはアシュビー家から出ようとしたフランセスを「行かないでくれ」と叫びながら庭の池につけて殺してしまいます。「これで僕から離れることはできなくなった」と言うサイモンの壮絶な表情を見よ!一方、トニー(仮)はキースの元を尋ねて「どうもやばいことになった、計画を中止したほうがいいよ」キースがどうしたんだと尋ねるのに答えて「僕はトニーの行方を知っているように思うのだ」

 いよいよクライマックスです。トニー(仮)はあのチャペルへ忍び込んで何かを探しております。そこにハリエット叔母さんが現れてもみ合いになりました。その拍子でパイプオルガンのパイプを壊しちゃった。パイプを外し壁を剥して「うわわわ」悲鳴を上げるトニー(仮)。なぜならその穴からミイラ化したトニーの死体が出てきたからです。とたんに背後に忍び寄っていたサイモンに一撃されて失神するトニー(仮)。

 サイモンはトニー(仮)を柱に縛りつけ、最後のオルガン演奏。彼は意識を取り戻したトニー(仮)に「トニー(これはホンモノ、死体の方)は寂しがっていた。トニー(こっちは偽者の方)、お前をトニー(ホンモノ、ああ、ややこしい)の仲間にしてやるよ!」ここに飛び込んできたのがハリエット叔母さん、彼女はそれまでの流れをまったく無視して「サイモンはあたしのものよ」と叫ぶなりチャペルに油をまいて火をつけたのです。彼女はそのままサイモンを連れ出して屋敷へ。動けないトニー(仮)、大ピーンチ、トニー(ホンモノ)のミイラと一緒に丸こげかと思われたのですが、間一髪飛び込んできたエレノアに助けられたのでした。

 火を見て完璧にクルクルパーとなったサイモン、「トニー(ホンモノ)を助けなきゃ」と叔母さんの手を振り切って火に包まれたチャペルの中へ。そしてトニー(ホンモノ)のミイラを抱えて脱出しようとしたのですが果たせず業火に呑まれたのでした。エンドマーク。

 実に面白かったけど、あれ、あれれ、トニー(仮)の本名はとうとう最後まで明かされなかったぞ(笑)。

 モノクロ・スクイーズ収録のワイド。モノラル音声。黒が浮き気味でナイトシーンがさえません。音質はあいかわらずの聞きやすさ。不気味なパイプオルガンの音も上手く表現しております。英語字幕つき。Hammer Horror Series (Brides of Dracula』『Curse of the Werewolf』『Phantom of the Opera (1962)』『Paranoiac』『Kiss of the Vampire』『Nightmare』『Night Creatures』『Evil of Frankenstein)を収録したボックスセット。ユニバーサルのDVD。

 エロの冒険者 

       HOMEPAGE http://homepage3.nifty.com/housei/

      SFシネクラシックス 輸入DVDでみるSF黄金時代(笑)

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